IT業界の“桜木花道” 活躍の秘密

2022年09月30日 08:40
十河宏輔氏
(C)ORICON NewS inc.

 28歳のときにシンガポールで起業。アジア市場に目をつけ、わずか6年で、13ヵ国・地域に1,000名以上の社員を抱える大企業となり、2021年には約190億円を超える売上高を叩き出したAnyMind Groupの共同創業者兼代表取締役CEOが、十河宏輔(そごう・こうすけ)氏だ。そこに不安やためらい、恐怖はなかったのかと問うと「王道なことをやっているので怖さはなかったかもしれませんね」と語る。さらには“失われた30年”を味わう日本にありながら「悲観することはない、世界の未来は明るい」とも豪語。超ポジティブな彼の原風景には何が潜んでいるのか。

【写真】十河宏輔CEOが憧れていた…“IT革命”で時代を賑わせ、騒動を語った堀江貴文氏

■「宏輔はなんでもできるから」全肯定されて育った少年時代、自身を“天才”と疑わなかったマインドで次々と成功

 AnyMind Groupは、ブランド企業やインフルエンサーなどの個人に向けて、ブランドの設計・企画から、生産管理、ECサイトの構築・運用、マーケティング、物流管理などをワンストップで支援する「ブランドコマース事業」と、パブリッシャー及びクリエイターに向けて収益向上に向けた支援を行う「パートナーグロース事業」を軸にしたITビジネスを展開する企業だ。13ヵ国19拠点で展開。今年は約50億円の資金調達にも成功した。

 その共同創業者兼代表取締役CEOである十河氏が起業家になりたいと思い始めたのは幼少期の頃。両家の祖父が経営者だったため「おじいちゃん格好いいな、僕も社長になりたい」と漠然と思っていたと言う。

「結構、生意気な子どもだったと思います(笑)。というのも、小さい頃から特に母や母方の祖父からずっと『宏輔は何でもできるから』と、全肯定されて育ったんです。そんな小学生の頃の僕の口癖が、漫画『スラムダンク』の桜木花道のセリフ『僕、天才ですから』。当時からできない理由を探すのではなく、自分は何でもできる、できるためには何をすればいいか、ということを常に考えて育ってきました。それは今のビジネスマインドにもつながっており、そういう風に肯定しながら育ててくれた両親には本当に感謝していますね」

■GAFA、TikTok…世界的企業に金銭面では敵わない──その解決策は

 小さい頃から祖父の家の隣にある祖父の会社で遊んでいた十河少年。皆が和気あいあいと仕事をしているのを見ていたせいか“会社”というものが“楽しい場所”であるとの認識も刷り込まれていった。そして高校時代。十河少年は“IT革命”という時代を経験する。

「当時ライブドアの社長だった堀江貴文さんやサイバーエージェントの藤田晋さん、楽天の三木谷浩史さんなどがメディアを賑わせていました。またインターネットビジネスで20~30代前半の人たちが活躍しているのを見て、すごくまぶしく見えました」

 その後、アドテクノロジーが流行っていることを知り、それを学ぶため、大学新卒でマイクロアドに入社。当時はGoogleが日本に進出し始めたタイミングであり、社長との面談時に、「大学時代のインド旅行の経験から、私も海外で活躍したいです」と堂々宣言したという。

これが功を奏したのか、3年目でベトナム法人での起ち上げのCEOに就任した。“根拠のない自信”、それは揶揄されがちなものではあるが、十河氏にとっては、すべてがプラスに働く。実際、ベトナムでの成功を機に、東南アジアの6カ国でも起ち上げを経験。「さすがにもうやりきっただろう」というところで、いよいよ起業に至る。28歳の時。“根拠のない自信”は揺らぎもしなかった。

「ですがそれは、僕が結局、“王道”なことをやっているだけだからかもしれません。特に危ない橋、隙間を狙っているわけではない。感覚的には、日本で堀江さんや藤田さん、三木谷さんらがやられていたことを、市場を東南アジアという場に移しただけ。インドや東南アジアは人口も多く、若者も多い。さらには『未来は明るい』と感じている人が多い。ちょうど日本のバブル時代のような感覚でしょうか。『未来は明るい』マインドがあふれる場所で事業を行うわけですから、特に恐怖や不安などは感じませんでした」

 だが当然、ベスト・オブ・ベストだけを考えて生きているわけではない。「最終的にはどうにかなるだろうといつも思うタイプ」と笑うが、経営者として「壁にはいつもぶつかっている」と話す。その中の一つが「人の問題」だという。

「1000人以上の社員がいて13ヵ国・地域19拠点にしていると、キーマンが、それこそGAFAとかTikTokクラスの企業から引き抜かれたりもする。それを避けるためには、弊社が、ここにいて自身が成長できる場所だと思ってもらえないといけない。報酬的にも満足できるよう感じてもらえていなければならない。そこは常に改善をしていかなければ市場を代表する会社にはなれない。“人”は間違いなく重要だと思います」

■円安・物価高騰、そんな不況にあえぐ日本でも「日本ブランドは健在です!」

 経営は人・物・金が大切だと言われている。十河氏が重視しているのは“人”。お金に関しては現在伸びている市場でビジネスをやっているので成長プランに疑いはない。東南アジアが市場として魅力的だと感じている投資家も多く、期待値も高い状況です。

「ですから、優秀な人を集めて彼らが楽しく、かつ成長できるエキサイティングな環境をいかに用意できるか、それが経営者としては大切。そもそも金銭面でGoogleに勝つのは無理じゃないですか。そうなると“人”なんです。“人”に投資し、さらに環境を提供する。“会社愛”を持ってもらうために、こちらからもしっかり提供する。まだ6歳の会社ですので、オープンなコミュニケーションを心がけ、現在はその点をいかに展開できるか改善中です」

 さらには1マーケットに依存していないため、世界情勢や円安などの懸念、リスクも分散できている。

「日本だけで展開していたら、確かに大きなリスクを負っていたかも知れません。ただ、日本でもやりようはある。例えば日本ブランドはアジアで通用するので、日本人と仕事をしたいというアジア人は多い。人出不足なら、日本で働きたいと思っている方が多いから呼ぶこともできる。日本、あるいは日本人というだけでアドバンテージがあるんです。そこまで皆が悲観的になる必要はないと思います」

 終わったこと、現状の不利。それは仕方ない。前へ進むしかない。とにかく成長を続ける。大きなインパクトを残す。それが十河氏の突進力の源だ。その活躍には、今の彼を形作った家族の存在も大きい。

「きっと祖父も喜んでくれていると思います。僕がメディアに出た記事はすべてファイリングして、いつも見てくれているようで。そんな祖父たちの期待に答えたい、成長した姿を見せたい。上場するまで長生きしてほしい」

IT業界の“桜木花道”がどこまで急成長を魅せるのか。今後の活躍が楽しみだ。

(取材・文/衣輪晋一)

(提供:オリコン)