海と向き合うレッドデータブック 干潟や海底の希少な生き物を知る 三重・鳥羽市が徹底調査

2023年9月6日 16:53
絶滅する恐れのある動植物を紹介する「レッドデータブック」。地元の海の今を知ってもらおうと考えた、三重県の鳥羽市が今回、干潟や海底、離島の沖などを徹底調査し、独自でまとめ上げました。

レッドデータブックづくりの調査

 6日、鳥羽市役所で分厚い赤色の本が、お披露目されました。

 鳥羽市の中村欣一郎市長は「鳥羽のいまの海の豊かさを知り、なおかつ危機が迫っているというか心配な部分も知らなければいけない」と、この本の意義を説きます。

 お披露目された本は「鳥羽市海のレッドデータブック」。

 絶滅の恐れのある海の生き物を、市の単位で独自に調べてまとめるのは全国でも異例の取り組みです。

 調査は3年前から行われ、計419種が掲載されました。
 

調査の中心メンバー佐藤達也さん

鳥羽の海を潜り続けている佐藤さん
 中心メンバーは、鳥羽の海に10年以上潜り続けている佐藤達也さんです。
 
 水中カメラマンや漁師としても活躍し、学芸員の資格も持っています。
 
 2022年6月、佐藤さんは、鳥羽市の石鏡(いじか)の海に潜りました。 
 

ナガシマモク

幻の海藻「ナガシマモク」を確認
 見つけたのは“幻の海藻”、ナガシマモクです。
 
 船を漕ぐオールのような形の葉っぱが特徴です。
 
 日本では、三重県の志摩市にしか生息していないと考えられてきましたが、今回の調査で、鳥羽市沿岸でも確認されたのです。

 三重大学の倉島彰准教授(生物資源学研究科)は「今まで全然見つからなかったのが不思議」と、驚きを隠せない発見となりました。
 
 鳥羽市のレッドデータブックに載せられ「温暖化に伴う水温上昇、ウニ類や魚類の食害によって減少しつつある」と紹介されています。
 
 

ウロコムシが寄生したヒトデ

日本で初めての可能性がある発見も
 驚きの発見は、鳥羽市内の干潟でも。

 去年6月、同行したのは名古屋大学菅島臨界実験所の講師、自見直人さんです。

 自見さんが見つけたのは、多毛類の「ウロコムシ」が寄生したままのヒトデ。
 
 実は、このウロコムシの発見は日本で初めての可能性があるそうです。
 
 しかし、佐藤さんたちの調査は「珍しい生きもの」の発見だけを重視しているわけではありません。

 「珍しいものがいるから大事な調査かといえばそうではなくて“当たり前のものが当たり前にいる”のを見るのも大事な調査」(佐藤さん)


 

ウニの仲間スカシカシパン

多様な生き物たちを次々と確認
 佐藤さん自ら、船を操縦して向かったのは鳥羽の離島・神島の沖合です。

 少し黄色っぽく濁って見える海の底。

 たくさんの海藻が生い茂り、魚の群れが泳ぎ回る姿も見られます。

 鳥羽市水産研究所の岩尾豊紀研究員は「こっちはエンドウモク。エンドウモクは珍しいことはないけど、答志島とかやと、ちょっとしっかり探さなあかんけど時々おるで“珍しいとかじゃない”けど『あ、エンドウモクや』と思って」
 
 ほかにも、ウニの仲間、スカシカシパンを発見。
 
 レッドデータブックでは「将来的に絶滅危惧に移行する可能性がある」と紹介されています。

 自見さんは「今まで見過ごされていたようなやつも、ちゃんとレッドデータに載せていけたらなと考えています」と意気込みます。


 

夜間の調査で見つけたカニの仲間

日暮れ後の調査で見つけたのは…
 調査は日が暮れてから行うことも。

 昼間は穴に隠れていることが多い、カニの仲間を見つけます。
 
 同行したのは、三重大学の伯耆(ほうき)匠二助教です。

「当たり前にいる生き物をちゃんとモニタリングしていくことの意義を伝えらたらいいなと私は個人的に思っています」(三重大学生物資源学研究科 伯耆匠二助教)
 
 鳥羽の中をくまなく調べ、集まった成果をもとに、完成したレッドデータブック。
 
 私たちに馴染みのあるハマグリも「準絶滅危惧種」とされています。

 Q&Aコーナーでは「スーパーなどで見かけるのになぜ?」という疑問に対し、「多くは中国や朝鮮半島から輸入されたものです」と回答するなど身近な問題として、興味を持ってもらえるつくりになっています。

 

鳥羽市海のレッドデータブック

鳥羽の海と向き合う
  鳥羽市観光協会の大村佳之事務局長は「地元の人でも知らない内容もたくさん載っているので、地元の子たちも色々こういうのを見て、『鳥羽の海こんなのなんだ』と関心を持ってもらえたらうれしいですね」と話します。

 完成品を手にした佐藤さんに、感想を聞いてみると…。

 「『できたー!』みたいな感動があるかとおもったけど、ないですね。これをどんなふうに使ってもらえるか、どんな人に手に取ってもらえるかが大事」と話し、「自然環境は悪くなっているんだし、資源はなくなってるんだし、それとどう向き合っていくかということ」と将来を見据えます。
 
 「鳥羽市海のレッドデータブック」は「鳥羽市立図書館」で、誰でも閲覧できるほか「鳥羽市立海の博物館」で購入することもできるということです。

(9月6日 15:40~放送 メ~テレ『アップ!』より)
 

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