狙われるマンション修繕積立金 工事会社の元営業担当が明かす、工事費膨張の"落とし穴"

2023年8月10日 18:04
マンションの「修繕積立金」が狙われています。住民が毎月支払ってプールする、数千万円から1億円以上にも及ぶ巨額の「貯金」。修繕工事の経験がある関係者が取材に応じ、工事費が膨らんでしまう"落とし穴"について語りました。

工事費を巡って落とし穴が…

 ここ数年、全国的にマンション価格の値上がりが続いています。

 名古屋市内でも、去年の新築マンションの平均価格は5175万円。この10年で1.5倍まで高騰しています。

「少なくとも、名古屋の地元の人がマンションをほしいと思ってポンと買える金額ではなかなかないと思う。実際に名古屋で出ている千種区・中区・東区(などの中心地)のマンションは、東京や全国の富裕層が買っている動きもみられる」(東京カンテイ 井出武上席主任研究員)
 

名古屋市内の新築マンション価格(70平方メートル換算)

 そんな夢のマイホームを手に入れた後に始まるのが、住宅ローンの返済と「修繕積立金」の支払い。

 修繕積立金とは分譲マンションで十数年ごとに行われる大規模修繕に備えて、住民が積み立てる費用です。

「建物というのは経年劣化といって年ごとに少しずつ劣化していく。平均的に15年前後に1回は大規模修繕をやって、できたときの健全な状態に戻すというのが基本」(マンション計画修繕施工協会 木村光徳中部支部長)

 マンションを長持ちさせるために行われる大規模修繕。その金額は――

「この地区で、1戸あたりだいたい100万円前後というのが標準」(マンション計画修繕施工協会 木村光徳中部支部長)
 

大規模修繕の費用を抑える取り組みを行ったマンション(愛知・岡崎市)

費用を提示の半分以下に抑える
 費用は建物の劣化度合いなどで異なりますが、大規模修繕では、ある理由で費用が膨らみがちになるといいます。

 そんな大規模修繕の費用を抑えようと、住民が自主的にある取り組みを行ったマンションがあります。

 愛知県岡崎市にある80世帯が入る分譲マンション。

 新築から13年後の2018年、1回目の大規模修繕が行われました。

「約1億3000万円の大規模修繕費がかかるという提示があった」(元理事長 中神泰次さん)

 当時、マンション管理組合の理事長を務めていた中神さんは、マンション管理士に相談し、アドバイスを受けました。ポイントは「必要な工事だけを見極めること」。

「工事の優先順位をしっかり決めて、やらなくて良い所は先送りしましょうというようなアドバイスをした」(マンション管理士 馬渕裕嘉志さん)

 大規模修繕工事では業者から劣化が進んでいない箇所でも「セットで改修を」などと提案されることがあり、費用が膨らみがちになるといいます。

 しかし、相談をしたことで、費用を約4千万円抑えることができました。

「ありがちだが、大きな工事をするので、スケールメリットで全部やっちゃいましょうという提案をされるケースが少なくない。必ずしもそうでないですよと。劣化の状態と一緒にやった方が効率的なのか、コストが安くできるのかどうか。そういうことを考えながら相当きめ細かく選別していくとコストダウンができる」(マンション管理士 馬渕裕嘉志さん)
 

理事長経験者が専門委員として残る仕組みを

ノウハウを引き継ぐ態勢
 不要な工事を見極めていかに費用を抑えるか。

 こちらのマンションでは、そのノウハウを引き継ぐため、実務を担う管理組合の態勢についても工夫をしているといいます。

「歴代の理事長が一番よくわかっている。専門委員として入ってもらうような態勢にして理事長になる人をサポートする」(元理事長 星真一さん)

 マンション管理組合の役員は、メンバーが毎年入れ替わるのが一般的ですが、理事長経験者に「専門委員」として残ってもらう制度を作ることで、十数年に一度やってくる大規模修繕に備えています。

「過去に(費用が)これぐらいかかると分かれば、次だいたい分かるじゃないですか。そういうところを長期的なスパンで見る人が毎年代わるということで、いないというところが一番いけないところかなと思いました」(元理事長 星真一さん)
 

癒着により工事費が膨らむ一因にもなるという

指摘される「設計コンサルタント」問題
 大規模修繕をめぐっては、「設計コンサルタント」の問題も指摘されています。

 修繕時に管理組合は、設計コンサルタントに依頼し、どの工事会社に発注するかのアドバイスを受けます。

 しかし、中には特定の工事会社と癒着しその会社に発注するよう誘導するコンサルタントもいて、工事費が膨らむ一因にもなるといいます。

「大規模修繕工事の設計コンサルタントに営業して、当社で仕事したいということを申し入れて接待したり、良い関係を築いたりしていた」(工事会社の元営業担当)

 こう語るのは、関西で大規模修繕を行う工事会社に勤務経験のある男性。

 設計コンサルタントと癒着し、自分の会社に発注が来るようにしていました。

 仕事を受注できた場合、謝礼の意味を込めて、設計コンサルタントに“手数料”を支払い、その手数料が工事費に上乗せされていたといいます。

「だいたい3~5%、多いところで10%。客は知らない手数料。客が金の動きを知らないところでやり取りがあるのが現実」(工事会社の元営業担当)
Q.それを負担しているのは?
「お客様ですね。最終的に」(工事会社の元営業担当)
 

国土交通省が出した通知書

「節約したいという意識を」
 国土交通省は、「管理組合の利益に反する設計コンサルタントの存在」を指摘する通知を出しています。

 男性は当時を振り返り、住民に注意を呼びかけます。

「修繕積立金は、皆さんの意識の中では、すでに払った金なので興味がわかないかもしれないが、実際には共同で貯金をしているようなもの。まだ支払ってない段階の使い道は皆さまが決めるようなものだと思うので、節約したいという意識を高めれば、いろんなことが見えてくるし気づけると思う」(工事会社の元営業担当)

 大きなお金が動くだけに、住民が関心を持って主体的に関わることが、トラブルを防ぐカギになるようです。

 大規模修繕工事を巡っては、以下のような相談窓口があります。

【相談窓口】
■住宅リフォーム・紛争処理支援センター
電話番号:0570(016)100
■マンション管理センター
電話番号:03(3222)1519

(8月10日15:40~放送 メ~テレ『アップ!』より)
 

これまでに入っているニュース

もっと見る

これまでのニュースを配信中