「避難指示」発信はなぜ3時間以上遅れたのか 命を守る情報「Lアラート」愛知・豊橋市の混乱と課題

2023年6月8日 10:31
記録的な大雨に見舞われた愛知県豊橋市では、市が発表した避難情報の「Lアラート」への発信が大幅に遅れたことが分かりました。経緯を振り返ると、発信が遅れた理由と課題が見えてきました。

Lアラートの情報を伝えるメ~テレの放送画面

災害情報発信システム「Lアラート」とは
Lアラートは、全国の市町村が発表する避難情報などを放送局などの報道機関に配信するシステムです。市町村の担当者が発信した情報が、ほぼ同時に報道機関に伝わります。

以前はファックスでなど情報を伝えていましたが、Lアラートが整備され、避難情報の伝達はスムーズになりました。メ~テレでは、このLアラートをもとに「避難指示」などの情報を、ニュース番組やL字表示、さらに視聴者がテレビに登録した郵便番号に応じて自分の住む自治体の災害・避難情報を表示する「自動表示(エリア限定表示)」などで伝えています。
 

豊橋市の主な避難情報の流れ(6月2日)

2日の大雨時に起きたLアラート情報発信の遅れ
2日は午前中から雨が強くなり、豊橋市は午前7時20分に梅田川流域の川の水位が「避難指示」の基準を超えて以降、各地に「避難指示」の発表を決定します。

午後3時10分には下流の豊川・豊川放水路流域の川の水位が「避難指示」の基準を超えます。その後、梅田川の水位がさらに上昇し、午後4時20分、梅田川流域では川の水位が「避難指示」から「緊急安全確保」の基準に達しました。

しかし午後に発表が決定された「避難指示」「緊急安全確保」は、いずれもLアラートへの発信が大幅に遅れました。豊川・豊川放水路流域への「避難指示」は、川の水位が基準に到達してから3時間17分後の午後6時27分。梅田川流域への「緊急安全確保」は2時間7分後の午後6時27分でした。

Lアラートから情報を受け取って放送しているメ~テレでも混乱が起きました。午後4時20分に梅田川流域の水位が「緊急安全確保」の基準を超えます。その約10分後、豊橋市内で取材している記者からメーテレ本社に「梅田川が氾濫し、流域の地域に緊急安全確保が発表された」という情報が入りました。この記者は、携帯電話のエリアメールを見て連絡してきました。

しかし、メ~テレ本社のLアラートに届いている情報は、午前7時42分に発信された「避難指示」のまま。「梅田川流域に出ている避難情報は何が正確なのか?」確認に時間がかかり、放送に反映するのも遅れました。

柳生川流域の地域では、豊橋市による避難情報の発信ができない、という事態も発生しています。

午後2時40分に柳生川流域の水位が「避難指示」の基準を超えました。しかし、この情報をLアラートに入力している最中に、「避難指示」よりもレベルが高い「緊急安全確保」を発表する基準となったため、結局、豊橋市は「避難指示」の発信ができませんでした。

午後4時30分の「緊急安全確保」についても、Lアラートへの発信が約2時間遅れました。雨の状況が深刻化する中、Lアラートの情報発信が追い付かない状況が続きました。
 

豊橋市が発信したエリアメールの画面

SNSは、ほぼ遅滞なく発信 なぜLアラートが遅れたのか
豊橋市はLアラートだけでなく、様々なツールを使って市民に災害情報を発信しています。その一つがSNSです。SNSは、ツイッターや市独自のアプリ「ハザードン」などで、市民に直接情報が発信されています。また、市内に設置されたスピーカーなどからも情報を伝達しています。

SNSによる避難情報は、川の水位が基準を超えてから概ね10分以内、最長でも20分以内に発信されていました。SNSとLアラートで情報発信のズレが生じていたため「どの避難情報が出ているのか」正しく把握がしづらい時間帯が生じていたのです。

なぜLアラートは遅れたのか。

市の防災危機管理課は「SNSの発信はスムーズだったが、Lアラートでの発信は入力に手間取ってしまい、大幅に遅れてしまった」と話しました。

発信が遅れた具体的な理由について、担当者は「避難情報の対象地域が380地区あり、50音順に並んでいるひとつひとつの地区をシステム上で選択して情報を入力せねばならず、その作業に手間がかかった。今回の大雨では、システムを運用する愛知県の担当者も応援に来てくれて入力をしてくれていたが、市の担当者も、県の担当者も入力に時間がかかってしまった」と説明しています。

豊橋市では、以前から県側にシステムの改修を要望していたということです。愛知県防災安全局の担当者は「400近い地区の入力をよりスムーズにできるよう詳細を聞き、必要であればシステムの改修を検討したい」と話しています。
 

メ~テレが2023年4月から開始した自動表示のしくみ(表示画面はイメージです)

「避難指示」「緊急安全確保」対象地域の多くは大きな被害
豊橋市では2日夜、水没した車に乗っていた61歳の男性の死亡が確認されました。

死亡した男性の車があった下条東町は、豊川霞地区にあたります。今回の大雨で「避難指示」「緊急安全確保」が発表された梅田川流域、柳生川流域、豊川霞地区、豊川・豊川放水路の地区は、いずれも浸水の被害が大きかった地区です。

「避難指示」や「緊急安全確保」は災害時に命を守るための重要な情報です。私たち放送局をはじめとするメディアは、Lアラートなどを通じて避難情報を入手し、住民に伝えています。Lアラートは災害時に情報を伝える非常に重要なツールなのです。刻々と現場の危険度が増す中、情報を正確に、迅速に提供することは非常に重要で、私たちも災害が起きた際に、情報をスムーズに視聴者に伝えられる方法を試行錯誤しています。

現在、台風3号が日本列島に接近中で、再び大きな被害に見舞われる可能性があります。今回のような発信の遅れが再び起きることはないか、ほかの自治体でも同様のことが起きる可能性はないのか、改めて検証・点検が必要なのかもしれません。災害時には行政とメディアが連携して、命を救う情報を早く正確に伝えていくことが求められています。

(メ~テレ 災害担当デスク 柴田正登志)
 

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