「医療は無差別平等であるべき」仕事に就けない仮放免外国人の命守る“最後の砦” 無料低額診療続ける医師

2023年5月16日 18:38
日本は在留資格を持たない外国人と、どう向き合っていくのか。出入国管理法の改正が議論を呼んでいます。入管行政を巡っては、一時的に収容を解かれた「仮放免者」が働げずに、必要な医療を受けられないケースが後を絶ちません。

名南病院 早川純午医師(70)

 名古屋では、いのちを守る“最後の砦”で、医師が奮闘しています。名古屋市南区にある、名南病院。

 診察を受けているのは、ウズベキスタン出身のAさん(35)です。

 2017年に留学生として来日し、ビザを切り替えて自動車解体業に就きましたが、更新手続きを詳しく知らずに、ビザが失効。2019年に在留資格を失い、名古屋入管に収容されました。

 母国で事業を立ち上げた際にだまされて多額(日本円で約3000万円)の借金を負い、マフィアの取り立てから逃げるように出国したといいます。

 日本での難民申請は認められていません。
 

早川医師の診察を受けるウズベキスタン出身の仮放免中のAさん

健康悪化で入管から仮放免のウズベキスタン男性
 診察する早川純午医師(70)が「日本に来ている知人はいないの?仲間はいないの?」と問いかけると、Aさんは日本語の小声で「うん」と答えます。「一人なの?帰れない?」と聞かれると無言で答えました。

 Aさんは、収容中はストレスで食欲が減少。さらに敬虔なイスラム教徒のため、入管の食事には食材や調理の過程に不安を感じ、一部しか食べられなかったといいます。

 体重が20kgほど減り、歩くこともままならなくなったため、Aさんは、健康状態の悪化を理由に去年、仮放免となり、身元引受人となった支援者の家で生活しています。

「一緒にいるからと言って、全部彼(=Aさん)のケアができるわけじゃないから。先生からの受診をうけて、私も安心したいし。仮放免という立場自体がすごいストレスですからね。毎回(仮放免の)更新の時にすごい心配して、落ち着かなくなるので」(Aさんの身元引受人 真野明美さん)
 

無料低額診療について説明する名南病院内の張り紙

いのちを守る“最後の砦” 無料低額診療
 仮放免の場合、働くことは禁止され、健康保険にも入れません。

 体調不良を訴えるAさんを救ったのは、名南病院が実施している「無料低額診療」。経済的な理由から適切な医療を受けられない人々に対し、社会福祉法に基づいて、無料または低料金で診療を行う制度です。  

 名南病院で無料低額診療を利用する患者は年間約260人。その大半が、仮放免の外国人だといいます

 出所後、Aさんは名南病院で食道炎と急性胃炎と診断され、定期的に通院しています。

「入管の医師はあまり(体を)触らない。聞くだけ。『どこ痛い?』とか、『何やってる?』とか。『薬飲んでください』って、それしかない。なんでも痛み止め(くれるだけ)」(ウズベキスタン出身のAさん)
 

仮放免直後のAさん

仮放免の患者の共通点 「自己存在が否定され鬱やストレスに」
 名南病院では医師が身体を触って症状を確かめ、親身になって診察してくれることが何よりもうれしいと話すAさん。

 担当する早川純午医師は、仮放免の患者には“共通点”があると指摘します。

「鬱というかストレス性の症状が多いと思います。入管そのものがいつまでいないといけないのか、なぜここにいないといけないのかも分からないまま、そこ(入管)にいるという日本の制度の問題で、期限がないということと、仮放免で出た後も自己存在が否定されている、というよりも自己存在がないんですね、仕事ができないし。だからそういう(鬱やストレスの)人が多い」

「(亡くなった)ウィシュマさんみたいに栄養失調がどんどん続いていってそれが治療できなかったということは無いんですが、やはり一番多いのが低栄養。そこまでになると危ないですからね」(名南病院 早川純午医師)
 

炊き出し会場で健康診断をする早川医師(1月2日)

炊き出し会場では路上で生活する人への無料の健康相談
 名古屋市内の公園で行われている、炊き出し。長く地域医療に携わってきた早川医師は、 路上で生活する人たちへの医療支援も、10年以上続けています。年末年始は、支援団体とともに無料の健康相談を行っています。

「頭が痛いの?」(早川医師)
「ええ、精神科に通っていて薬をもらってのんでいたが、飲み切ってしまって」(炊き出し会場で健康相談を受ける人)

 ひとりひとり丁寧に寄り添い、診察する早川医師の姿に、看護師は…

「(早川医師は)まず『大変だったね』とか、『辛かったね』と話しかけます。指の切れている人とかもいて、指をさわって『今まで大変だったね』って言う。その姿を見たら泣けてくるぐらい感動して」(早川医師と活動する看護師)

「路上で生活しているからと言って、本人の責任ではない部分が非常に大きくて、そういうことがわからないと、一方的なこちらの見方で路上の人を見てしまうからそれは避けたいと思います」(早川医師)
 

無料低額診療を実施する医療機関の数

無料低額診療の実施には大きな壁
 困窮する人々に適切な医療を提供したいと、名南病院が取り組んでいる、無料低額診療。
  
 コロナ禍で経済が低迷し、需要は高まっていますが、実施している医療機関は2020年度の時点で732施設。全医療機関の、わずか0.4%にとどまっています。

 導入の大きな壁となっているのは、費用負担です。

「無料低額診療をやっている医療機関はほとんどないもんですから。本人が治療を続けていくとなると、ここ(名南)病院みたいに経済的に困っててもできるようにしないと、無理だと思う」(早川医師)
 

名南病院 早川純午医師(70)

「医療本来は無差別平等であるべき」
 名南病院によると、無料低額診療の実施に伴う出費は、昨年度1年間で1000万円を超えたということです。

 条件を満たせば税制上の優遇措置が受けられる場合がありますが、名南病院には適用されていません。

 また、院内で処方する薬についても”補助”はなく、病院にとって大きな負担となっています。

「無料低額をやる理由は、やはり医療を受ける入り口を幅広くして、誰もが困ったら来るという、その人の人生をちょっとでも良くしたいというのが基本です。医療本来は無差別平等であるべきなので、それを実践するための1つの方法だと考えています」(早川医師)

 いのちを守る、“最後の砦”。託された期待と負担の大きさには、医療政策や入管行政が抱える問題の大きさが、如実に表われています。

(5月16日 15:40~放送 メ~テレ『アップ!』より)
 

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