池上彰と考える!巨大自然災害から命を守れ 発生確率90%に備えよ

2022年9月7日(水)午後6:45~8:00

池上彰が徹底解説!メ~テレ災害取材班が徹底取材!

出 演

池上彰 竹下景子 井戸田潤(スピードワゴン)
 浅尾美和 河合郁人(A.B.C-Z) 
石神愛子(メ~テレアナウンサー)

東日本大震災の翌年から、ジャーナリスト・池上彰さんとメ~テレ災害取材班が毎年制作している防災・減災特別番組の第11弾。

最大死者数が23万人と想定される「南海トラフ巨大地震」。今年に入り、その発生確率は「今後40年間に90%程度」と発表された。南海トラフ巨大地震が発生した場合、単なる「災害」ではなく「国難」になると指摘する専門家もいる。いつか必ずやってくる「その時」への備えを考える。

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放送内容

「沖から来ると思ったら」不気味な静けさから2分後…思わぬ方向から突如襲った津波映像を独自検証※動画には東日本大震災の津波の映像が含まれます

2011年の東日本大震災で、岩手県宮古市を取材したメ~テレが入手した映像には、小さな港町に突如高い津波が襲う様子が生々しく映されていました。津波はどのようにして到達したのか…。11年が経過した現地取材を踏まえ独自に検証しました。

▼「沖から白波を立てて来る」と思い込んだ住民たち 突如襲ってきたのは…

 映像が撮影されたのは、本州最東端の半島に位置する岩手県宮古市千鶏(ちけい)地区。映像の前半には、防波堤の内側で波が渦巻く光景と、その様子を海岸近くで眺める人たちが映っていました。

「上で見ていたが、ああ大丈夫だなと思った」(地区の住民)
「大きな津波でなく、渦巻いて少し波がしけたり、港の中が満杯になったり。沖の方から波が来るなら分かるが…」(地区の住民)

 住民の多くが考えたのは、海の向こうから白波を立てながらやってくる津波でした。しかし、白波は一向に見えず。動画の撮影者も、海の様子が変わらないため、録画をいったん止めます。しかし、その2分後のことでした。

 巨大な津波が、港町の海岸横から突如襲ってきたのです。映像には、町が一瞬にして津波に飲まれる様子が克明に映し出されていました。溯上高は、34.2mにまで達し、32人が津波に飲まれ亡くなりました。

「津波は沖からではなく、回ってきたような気がする。いきなりドーンと来て、この辺はみんな海になった」(千鶏地区 下村勝弘さん)

「海を見ている人や近くにいた人たちは流された。まさかこうなるとは思わなかった。誰もがそう思ったのでは」(千鶏地区 千村あさ子さん)


▼思わぬ方向から襲ってきた津波 キーワードは「反射波」 東海地方でも起こりうる場所が

 映像で捉えられた津波について、専門家は波が持つ“ある現象”の存在を指摘しました。

「『反射波』の影響で高い津波になり、町に襲ってきたとみている。津波は東からやってきて、岬上を回り込む形で入ってきた。壁に当たった津波が反射して千鶏地区に流れ込んできた。沖合から津波が直接やってくるのではなく、横からやってきたように見えた。反射してくる波はどこから来るか分からない」(名古屋大学 減災連携研究センター 富田孝司教授)

 反射波の影響で、思わぬ方向から到達してきた津波。富田教授は、東海地方の沿岸部でも、同じような津波が来る可能性があると指摘します。

「三重県のリアス式海岸はリスクとしてある。リアス式海岸のような複雑な地形だと、いろんな所で反射して、それが重なりあってしまう現象が起き、局所的、ローカルに高い波になる場所もありうる」(富田孝司教授)


▼迫る南海トラフ巨大地震 被災地から東海地方へのメッセージ

 11年前、消防団の分団長として津波からの避難を呼びかけ続けた、中村卓郎さん。

「東海地方も地震が起きれば津波が起きるというけど、自分の命は自分で守ると1人1人が頭に入れておかなきゃ。必ずこんな大きな津波は来るから」(千鶏地区 中村卓郎さん)

 最大死者数が23万人と想定される「南海トラフ巨大地震」は、今年に入り発生確率が「今後40年間に90%程度」に高まりました。想定外の津波を経験したからこそ中村さんが東海地方に伝えたいのは、3つの教訓です。

1:「高台への逃げ道を確認しておく」

「行政などを頼らないで自分たちで逃げるルートを決めた方がいい。逃げる時に川のそばや谷になっている所は避けないとだめ。家族で亡くなっている人もいつも歩いている道路を逃げたから津波に飲まれた。最短ルートで家の裏を上がれば助かったかもしれない」(中村卓郎さん)

2:「地震が来たらまず避難」

「津波が来てから逃げるのではなく、地震が来たら避難する。そうしないと間に合わない。名古屋も平地が多いから、とにかく高いところ逃げる」(中村卓郎さん)

3:「一度避難したら戻らない」

「この津波の時に亡くなった多くの人が、家にものを忘れて帰って亡くなった。財産は生きていればまだやり直しできるが、命は1回で終わり。命を大切にしないと。津波は怖いものだということを頭に入れておく」(中村卓郎さん)


知っていますか?緊急地震速報に加わる「長周期地震動」名古屋が要注意なワケ※動画には東日本大震災の津波の映像が含まれます

東日本大震災で、震源から遠く離れた名古屋の高層ビルにいた人たちが、長くゆっくりとした揺れを経験していました。揺れの正体は「長周期地震動」。取材を進めると、東海地方のある場所で「長周期地震動」が発生しやすいことが分かりました。

▼「船酔い状態に…」長くゆっくりとした揺れが11年前の名古屋で起きていた

 2011年の東日本大震では、震源の宮城県沖に近い地域を大きな揺れが襲いました。震源から約400km離れた東京・新宿でも震度5弱を観測。高さ200m級の超高層ビルが横に大きくしなり、10分以上に渡って揺れ続けたといいます。

「2~6秒の周期で建物が揺れる地震動のことを長周期地震動といいます」(名古屋大学 災害対策室 護雅史教授)

 長く大きな横揺れの正体は、「長周期地震動」だと専門家は指摘します。

「地面では、5秒や数秒の揺れはあまり気づかないが、地面の揺れがたとえ小さくても、10回、20回と揺すられることによって、建物の上部ではどんどんどんどん揺れが大きくなってくる」(護雅史教授)

 長周期地震動は、周期の短い地震よりも遠くまで届き、長い間揺れ続ける特徴があります。東日本大震災では、震源から600km以上離れた名古屋の高層ビルでも、地上で感じる以上の揺れが襲ったといいます。

「ルーセントタワーの32階で仕事をしていた。最初に結構大きな揺れが来た」(名古屋で長周期地震動を経験した人)

「船に乗っているようなゆっくりとした揺れが何分か続いて、船酔い状態になった社員も何人かいた」
「横揺れがすごくて、長く大きく揺れていた印象がある」(名古屋で長周期地震動を経験した人)


▼コピー機が滑るように動く…長周期地震動の危険性

 長周期地震動を再現した実験映像を見ると、揺れに対して人は立っていることができません。さらに、書棚なども倒れてきて、下敷きになる恐れがあります。何度も左右に揺さぶられることで、キャスター付きのコピー機は勢いよく動き、周囲に激しくぶつかります。

「東日本大震災の名古屋、新宿でもあれだけ揺れるため、当然、高層建物は遠い地震でも家具は動き回る。なるべく建物の中の安全な場所で、揺れが収まるまで身の安全を確保することが大事」(護雅史教授)


▼東海地方で「長くゆっくりとした揺れ」が起きやすいのは

 愛知県がある濃尾平野は、大昔は海だったため、地面の下には軟弱な地盤が厚く堆積しています。

 そのため、地震が起きた場合、地震の波は軟弱な地盤で増幅し、固い岩盤で覆われた盆地の中で長く揺れ続けることになります。

 名古屋駅周辺などの高層の建物では、より大きく長く揺れる可能性があります。


「津波なんかに負けない」歌で防災を学んだ小学1年生…10年後の地震で取った行動とは 三重県尾鷲市

南海トラフ巨大地震で、最大17mの津波が襲うと想定される三重県尾鷲市。「てんでんこ」という言葉をキーワードに、子どもたちを津波から守る教育が行われてきました。

▼池上彰が取材「子どもにどうやって伝える?」防災教育の難しさ

10年前の三重県尾鷲市。メ~テレは、小学校で行われていた避難訓練の様子を取材していました。

「本当に分かっとる?津波は待ってくれへんのよ」(中村佳栄先生)

 小学校に上がったばかりの1年生と向き合っていたのは、担任の中村佳栄先生です。尾鷲市では、南海トラフ巨大地震が起きた場合、最大17mの津波が15分で押し寄せると想定されています。

「本当に具体的に言わないと子どもには分かりませんよね」(池上彰)

 当時、ジャーナリストの池上彰が尾鷲市を訪れ、中村先生を取材しました。

「目の前にいる子どもたちをどうやって助けるか?」(池上彰)
「難しいとばかり言っていられない。何が出来るかを考えてひとつずつやるしかない」(中村佳栄先生)


▼歌で防災を学んだ子どもたち 10年目の成果

 2021年12月3日の朝。和歌山県を震源とする最大震度5弱の地震が発生しました。防災無線では、海岸付近にいる人に対して、津波に注意するよう呼びかけられました。

 震度3を観測した三重県尾鷲市の高校では、生徒全員がグラウンドに避難しました。当時高校1年の桑原総司さんはその時、体育の授業を終え、着替えの途中で避難しました。

「靴は履き替えないで、上履きで避難した。友達とあわてないように避難した」(高校1年 桑原総司さん)

 実は桑原さん、あの時の中村先生の教え子でした。当時のクラスメイトたちに話を聞くと…

「あの時に地震や津波についていっぱい勉強して、いっぱい怖さを知ったから、今になって地震や津波への対処と対応が早くなった」(高校1年 桑原総司さん)
「めちゃくちゃ生かされている。防災学習がなかったら多分何も分からない」(高校1年 大藤寿斗さん)
「街にみんなで出て、地震が起きたらここは危ないとか、ここから逃げられるというのを調べたのを覚えている」(高校1年 内山聖那さん)

 10年前の3人は、地震が来たら避難することをとことん教わり、ついにはこんなことを言っていました。

「命を守る勉強をして、自分で逃げる自信がもてたと思います」(小学1年の内山聖那さん)
「みんなの命が大事だと思います。津波なんかに負けたくありません」(小学1年の桑原総司さん)

 3人が今でも覚えている歌があります。

「今から『てんでんこ』の歌を歌います。聞いてください」(小学1年の大藤寿斗さん)

「♪じしんがきたらあたまをまもれ そのままじっとダンゴムシ ゆれがとまったらいそいでにげろ ガラスとかべにきをつけて てんでんこ てんでんこ てんでんこ」(てんでんこ~いのちをまもる~)

 東北地方に伝わる「津波てんでんこ」。地震が来たら、みんなてんでんばらばらに高台を目指せ。この教えが歌に込められています。

 中村先生は子どもたちと一緒に「てんでんこ」の歌の歌詞を考え、メロディーを作りました。


▼子どもたちを守る使命感 歌で伝える防災教育「命を守ることにつながれば」

 中村先生は現在、隣町の小学校で5年生の担任を務めています。10年前は東日本大震災の直後で、「南海トラフ地震に備えなければいけない」という使命感は相当なものだったと振り返ります。

「勉強が分からないとか、算数を間違えた、というのはやり直しがきく。命を守るということは失敗したらおしまいというのがあったので、それが自分の目の前で起きたらどうしようかというプレッシャーや怖さの方が大きかった」(中村佳栄先生)

 子どもたちが、どうやって地震や津波から命を守れるのか。そこで思いついたのが、歌で避難行動を身につけてもらうことでした。

「歌はずっと覚えていられると思っていて。歌の通りに逃げたら助かったとか」(中村佳栄先生)

「♪じしんがきたらあたまをまもれ そのままじっとダンゴムシ」

 子どもたちのアイデアで、机の下に隠れる姿を「ダンゴムシ」と表現しました。そして、歌の最後はこう締めくくられています。

「♪おとなになってもわすれない みんなのえがおがたからもの」

「てんでんこ」の歌を一緒に作った子どもたち。その10年後の地震で、普通のことのように避難行動をとりました。

「あの子たちがいま高校生になって、防災を学んできた子たちがどんどん増えていく。またその子たちが下の子に伝えていく。それが当たり前になれば、もっと命を守ることにつながっていく」


進化する防災食!災害時に活躍する自衛隊おすすめ「ミリ飯」を浅尾美和がリポート!

災害への備えとして準備しておきたいのが「防災食」。そのバリエーションやおいしさは、驚きの進化を遂げていました。元ビーチバレーボール選手の浅尾美和さんが最新の防災食を大調査!

▼過酷な訓練と任務遂行のため…自衛隊のグルメ事情

 浅尾美和さんが訪れたのは、名古屋市守山区にある陸上自衛隊守山駐屯地。

「グルメと結びつかないですけど…ただ、どんなものを食べているのかなというのは気になります」(浅尾美和)

 守山駐屯地には、東海・北陸6県を管轄する「第10師団司令部」が置かれており、各部隊1600人が有事や災害時の出動に備え、訓練しています。そんな守山駐屯地の屈強な隊員たちを満足させる食事情に、浅尾美和さんが迫りました!

 有事の際、最前線を担う「第35普通科連隊」。なんと、浅尾美和さんがその訓練に飛び入り参加することに!重さ3kgを超える防弾チョッキに、鉄製のヘルメットも装着。総重量4kgを身にまとい、ミット打ちに挑戦!

「心臓がドクドクします…」(浅尾)

 過酷な訓練を1日中行っているという自衛隊員の皆さん。隊員たちの胃袋を支えているのが、隊員食堂です。普段のランチがどんなものか、見せてもらうことに。

「品数いっぱいで、結構ボリュームありますね」(浅尾)

 この日のメニューは、エビフライに味噌カツ、手羽先風味の唐揚げと、名古屋名物がたっぷり!まずはビッグサイズのエビフライからいただきます。

「おいしいです!身がぎっしりなんですよ。衣で嘘をついていないエビフライ」(浅尾)

この自衛隊ランチ、見た目と味はもちろん、素材にもこだわっています。

「任務を遂行する上で必要な体づくりを目的としているので、栄養管理は非常に重視しています。隊員の嗜好に沿うように意見を聞いて、少しでもおいしい、飽きの来ない献立を日々提供しています」(2等陸尉 小酒井友裕 糧食班長)

 食堂では、日々訓練に励む隊員たちの活力になるよう美味しいメニュー作りに全力投球。その甲斐あって、2021年、全国の駐屯地で競い合った「陸自飯グランプリ」では、肉部門で守山駐屯地の「肉ひつまぶし」が1位を獲得!牛肉のすき焼きにポークステーキ、焼き鳥がのったスペシャル丼。シメに出汁をかけて食べれば、味変が楽しめます。

「あれだけ大変なトレーニングを暑い夏も冬もやっているから、いいものを食べてほしい」(浅尾)


▼食へのこだわりは保存食にも

 食へのこだわりは、外での任務を支える保存食にも生かされています。災害現場や被災地など、過酷な任務を担う隊員のパワーの源。その保存食こそが「ミリ飯」なんです。しかし、以前は缶詰タイプが主流で、メニューも8種類ほど。味の評判もイマイチだったとか。そこで改良を重ねて登場したのが、レトルトタイプの保存食です。

「肉団子に、ポークソーセージステーキ、豚しょうが焼き。肉系が多いですね」(浅尾)
「全部食べたことあるけど、ウインナーカレーはおすすめです。ザ・カレーみたいな感じで、本当に食欲も沸いておいしいです」(3等陸曹 谷奈津樹さん)

 レトルトに代わったことで、味のクオリティが向上。料理の幅も広がり、バリエーション豊富に!和洋中、様々な味付けで1日3食1週間、全部で21食のラインナップがあります。


▼進化する防災食(1) 通販で買える!「ミリ飯」

 一般向けにアレンジされた「ミリ飯」が、防災食として今年新たに登場。温めなくてもおいしく食べられる点が進化ポイントです。

「肉肉しくて、パワーつきそうです。パッケージがものすごくしっかりしている。テンション上がりますね」(浅尾)

 一番人気は、ポークソーセージステーキ。気になるお味は?

「おいしい!ジューシーだし、パンに挟んでもすごくおいしいと思う。これは人気ナンバーワン納得!」(浅尾)

 保存期間は5年間。メニューは、どれも自衛隊員に人気の4種類。味は自衛隊のお墨付きです。


▼進化する防災食(2) ナゴヤご当地チェーン店の新たな味!

 食べ慣れたあの味も防災食に。愛知県発祥の「カレーハウスCoCo壱番屋」が監修した、尾西食品の防災用カレーライスセットです。

「お湯で簡単にできて、やっぱりココイチっていうのが安心!」(浅尾)

 中には、レトルトのカレーとインスタントのご飯、アルファ米に、スプーンまでついています。お米はお湯か水を入れるだけ。お湯の場合は15分、水の場合は1時間待ったら、そのままカレーを注いで食べられます。このカレーライスセットに、今年新たな味が発売されました。見た目はほとんど変わりませんが…

「新しい味は、うちで作るカレーに近いんですよ。クリーミーで優しい。甘口?」(浅尾)

 そう!小さなお子さんが災害時でも食べやすいよう、辛さ控えめでマイルドな甘口が新たに登場しました。

「これはうれしい!辛口は子どもにはちょっと辛くて、これだったらいける」(浅尾)

 さらに、もうひとつメリットが。

「夏は辛いカレーに冷たい水をゴクゴクいきたいけど、災害時はそうはいかないですもんね」(浅尾)


池上彰がリサーチ!トヨタのお膝元で農工業支える「明治用水」もし南海トラフ地震が起きたら?

今年5月、愛知県豊田市にある明治用水の頭首工で大規模な漏水事故が発生。もし明治用水が地震の被害を受けると、どんなことが想定されるのでしょうか。池上彰が明治用水を辿っていくと、暮らしを直撃する意外な影響が明らかとなりました。

▼愛知の産業支える明治用水「インフラも耐震化が必要」

「ここは愛知県豊田市の水源町です。水源の由来は明治用水なんですね。矢作川の水を明治用水に取る取水口になるのが頭首工です」(池上彰)

「頭首工から用水路を通って西三河に広く水が運ばれるわけですが、5月の漏水事故が起きた直後は、川底がほとんど見えている状態でした」(石神愛子アナウンサー)

 今年5月、明治用水の頭首工で起きた大規模な漏水事故。川底に穴が開き、川の水が頭首工の下をくぐり抜けて、下流側に漏れ出してしまいました。そのため、水位が低くなり、用水路へ水を送ることができなくなってしまったのです。これにより農業用の水は、約2カ月半にわたって供給が制限されました。また、工業用水としても利用されているため、トヨタ自動車などでは工場の稼働が一時止まる事態に。工事の担当者に話を聞くと…

「今は夏で洪水に対して気を付けなくてはいけないので、本格的な対策ができずにいる。漏水箇所の上部をコンクリートで覆い、完全に水を止めている状況。なんとか全面的な給水に至っているが、まだ節水をお願いしているという状況」(東海農政局 復旧工事統轄 杉山一弘さん)

 明治用水の頭首工は造成から60年以上が経過し、頭首工や水路では耐震化工事の真っ最中です。

「耐震工事というと、人が住む建物のことを考えますけど、こういうインフラも大事なんですね」(池上彰)


▼明治用水は南海トラフ地震に耐えられるのか?

 池上彰は、気になるものを見つけました。

「ホースに番号が打ってありますね」(池上彰)
「ポンプで矢作川の水をくみ上げて、明治用水に流している」(石神愛子アナウンサー)

 事故後の応急処置で、矢作川の水は明治用水へと続く水路に直接送り込まれていました。専門家は、水を供給するインフラはひとたび損傷すれば産業に大きな影響を与えると、警鐘を鳴らしています。

「西三河で主要な自動車産業は、日本で最も多い製造品出荷額で30兆円弱。西三河を支えている極めて重要なインフラであることに、多くの人が気づいていなかったことが問題」(名古屋大学 福和伸夫 名誉教授)

 明治用水は果たして、南海トラフ地震に耐えられるのでしょうか?

「強い揺れが来れば、当然被害は出ることになる。構造物が生きていたとしても、頭首工から取水している部分や水をせき止めている部分に損傷が生じただけでも水は流せない」(名古屋大学 福和伸夫 名誉教授)


▼「産業の血液」工業用水 南海トラフ地震でどうなる?

 明治用水が地震の被害を受けると、どんなことが想定されるのか。池上彰は明治用水を下ります。水はやがて地下を流れ、地上はサイクリングロードなどになっています。その周りには田園風景が広がり、おいしそうな梨が実っていました。

「見事な緑の田んぼ。明治用水の恩恵なんですね」(池上彰) 「農業用の水は、地下のパイプラインを下って行き渡っているんですが、工業用水に欠かせないのが浄水場です」(石神愛子アナウンサー)

 安城市にある安城浄水場。明治用水を流れてきた水を工場用に浄化し、トヨタ自動車など西三河一帯の131の事業所に供給しています。

「巨大地震が来た場合は、工業用水が止まってしまうこともあるのでしょうか」(池上彰)
「耐震補強はしていますが、完全に無被害ということはないと思います。できるだけ軽微に損傷を抑えようと思っています」(西三河水道事務所 近藤昭次 所長)

「なかなか私たちの目に見えない所で水は大事な役割をしていますね」(池上彰)
「特に工業用水は産業の血液と言っていますので、生産活動には欠かせないものだと思っています」(西三河水道事務所 近藤昭次 所長)

 安城浄水場の「心臓部」とも言えるポンプ室です。

「『北部』とありますが、文字通り北部に送るんですか?」(池上彰)
「西三河の内陸部に送っています。主な送り先としては、トヨタ自動車などがほとんどです」(西三河水道事務所 近藤昭次 所長)

「これは『衣浦』とあります。『浦』ということは海岸沿いですか?」(池上彰)
「衣浦港など臨海部に主に送っているポンプです。JERAなど主に臨海部に立地している工場に送っています」(西三河水道事務所 近藤昭次 所長)
「例えば、火力発電所などですね」(池上彰)


▼工業用水が止まると…「日本最大級」の発電所にも影響が

 明治用水は、安城市から碧南市に広がる田園地帯を通って、衣浦の臨海工業地帯へ。そこに位置する碧南火力発電所は、愛知県で1年間に消費する電力の約半分をまかなう、日本最大の石炭火力発電所です。明治用水の使用量は、1つの事業所としてトップクラス。その水はどこで使われているのでしょうか。

「ボイラ建屋で石炭を燃やして蒸気を発生させています」(碧南火力発電所 管理ユニット長 平井良隆さん)

 明治用水の水をボイラで水蒸気に変え、その力でタービンを回して発電します。さらに…

「排ガスに上から水をかけて処理する。水をかけることで、排ガスに含まれる硫黄成分を除去する」(碧南火力発電所 管理ユニット長 平井良隆さん)

 発電だけでなく、水は環境対策にも必要だといいます。

「明治用水ではるばる運ばれてきた水が活躍しているわけですね」(池上彰)

 そして、明治用水の水を貯蔵する場所へ。

「正面に見えてきたのが原水タンクで、工業用水の受け入れタンクになる」(碧南火力発電所 職員)

 目の前に現れた巨大なタンク。ここに明治用水の水が貯められています。

「タンク1つでどのくらいの水が入る?」(池上彰)
「1基で約2万t。最大約10万tの水が5基のタンクに入る」(碧南火力発電所 設備運用ユニット長 大山眞二さん)

 この水で、最大5~6日分の発電が可能です。2022年5月の頭首工の漏水時には、水の供給が一時止まりました。その時、発電所では「節水」を行い、排水処理に使う水の再利用に努めました。さらに、付近の下水処理場の処理水も受け入れる対応を取りました。

「これから大地震で明治用水からの工業用水が入ってこなくなると発電所が止まっちゃいますよね?」(池上彰)

「今回のようにできる限りの節水をやっていきますが、やはり停水せざるを得なくなると思います。ですが電力を安定供給するため、他の発電所からバックアップして、電気の使用に支障のないようにしていきたいと」(碧南火力発電所 設備運用ユニット長 大山眞二さん)


▼不測の事態に備え…停電対策に重要な3つの光

 停電に備えて、私たちはどのような対策をしておけばいいのでしょうか。愛知県の防災啓発団体「防災ママかきつばた」に聞きました。夜の地震で停電すると、暗さでパニックになり不安が増してしまいますが、光の種類を増やすことで心の安定につながるそうです。暗闇を照らすには、3つの光が重要だといいます。

1:キーホルダー型のライトやスマホのライトなど「普段から携帯できる光」

2:ランタンなどリビングで「長時間周りを照らす光」

3:頭に付けて両手を空ける「避難できる光」

 真っ暗な時に、自分がどのような行動をとるかを考えて、どこに何を置くべきかイメージしておくことが大切です。

ゲストコメント

竹下景子さん

これまで番組に何度か参加して、私自身も防災について学んできました。なかなか防災教育や避難訓練の成果が表れることは少ないと思うんですが、この番組が10年以上続いているからこそ、学んだことが実際に役に立つということがすごく身近に感じられて、私自身が勇気づけられ、嬉しく思いました。

竹下景子さん
井戸田潤さん

今回「長周期地震動」を体験して、家具の固定など細かいところまで対策に気を使わないといけないことを思い知らされました。いつ来るか分からないものに備えることが大事だし、忘れないようにしなくてはいけないと改めて思います。この番組をきっかけに、防災グッズを家に備えるようにしましたしね。

井戸田潤さん
浅尾美和さん

2年前この番組で「線状降水帯」という言葉を学んだんです。今では当たり前のように耳にするようになりましたよね。子どもに地震の怖さってどこまで伝えたらいいんだろうって思うんですけど、その怖さをしっかり教えること、自分の命は自分で守ると教えることがすごく大事だなって感じました。

浅尾美和さん
河合郁人さん

実際に津波を経験した方の話を聞いて、津波は「来るかもしれない」ではなくて「来るんだ」という気持ちでいないといけないと感じました。まだまだ防災について知らないことが多いんだなということに気付かされましたし、自分が学んだことはたくさんの人に伝えていく必要があると思いました。

河合郁人さん

池上彰 11年目の思い

Q.メ~テレでの防災番組は11年目となりました

池上彰よく続いていますね(笑)東京のキー局でも番組をやっていますけど、全国の人に注意してくださいって言っても、どこまで届いているのか分からなかったり、どうしても一般的な話になったりしますよね。だけど例えば濃尾平野ではどうだとか、具体的な話があって初めて、じゃあ自分はどうしようかということになるんです。本当の意味で命を守る防災というのは、地域密着でなければいけないと思うものですから。

Q.今回の見どころは?

池上彰今回は明治用水の水が漏れたということをきっかけに、地震について考えます。明治用水というと、私も小学校の頃に農業用水として習っているわけで、西三河の工業を支えているものなんだということが実際に行ってみて分かりましたね。それから「長周期地震動」と言ってもなかなか覚えられないんだけど、それを人に伝えようとすると、結局自分の身になると思うんですね。あるいは家で防災食を食べてみるとか、実体験をすることによって体に覚えさせるということが役に立っていきます。ぜひ皆さんも取り組んでいただければと思いますね。

Q.東海3県の視聴者へメッセージを

池上彰「東海地震が来る」って随分前から言われていて、静岡県の人は「地震が起きたら津波が来る」と徹底的に叩き込まれて意識がかなり定着しているんですよ。愛知、岐阜、三重ではどうだろうかというと、「南海トラフ地震」という巨大な地震が来る可能性があるんだという、これまで考えていなかった「想定外」を想定するという意識をぜひ持っていただきたいと思いますね。だって40年以内に起きる確率が90%ですから。この地方に暮らしている方が、いつ何時経験してもおかしくないんだということを考えてほしいと思います。