- 165回 -

2017年5月29日(月) あさ 4:00~4:55

防衛フェリー ~民間船と戦争~

防衛省は去年、民間のフェリーと船員を自衛隊のために運用できるようにする新たな制度をスタートさせた。契約した民間フェリーは、他国から攻撃を受けた場合の防衛出動や災害派遣の際、72時間以内に出航して戦車などの特殊車両や自衛隊員を目的地へ運ぶ役割を担う。
防衛省が選んだフェリーは青函航路で運航されていた高速双胴船「ナッチャンworld」と、日本海で活躍した高速フェリー「はくおう」の2隻だ。2隻を運航するため、商社や船会社など8社で特別会社を設立。防衛省は特別会社とフェリー運航の契約を結び、10年間で250億円が支払われる。
第二次安倍内閣で閣議決定された現在の防衛大綱では、北朝鮮や中国が新たな「脅威」と位置づけられている。防衛大綱には、有事の際に北海道や本州に駐屯する陸上自衛隊の部隊を迅速に九州・沖縄へ展開することが盛り込まれている。しかし海上自衛隊には陸上自衛隊の部隊を運ぶ十分な艦船がない。民間フェリーを活用することでコストの削減を図る。
防衛出動で自衛隊の船として運航されるが、民間人を自衛隊の船に乗せることはできない。そこで短期の訓練を受けた民間人を予備自衛官にする「予備自衛官補」を海上自衛隊にも取り入れた。これに対し全日本海員組合が「戦中の徴用に繋がる」と強く反対している。太平洋戦争中、大型の商船のほか漁船など数多く民間船が強制的な動員である「徴用」の対象となった。船員の死亡率は海軍兵の約2倍にのぼったとされる。また湾岸戦争時にはアメリカの要請で日本政府が民間の輸送船を「中東貢献船」としてペルシャ湾に派遣。「日本政府の指揮下で運航する」と当時の外務省は国会で説明していたが、実際はアメリカ軍の指揮下で行動し、イラク軍のミサイル攻撃に晒されていたことが今回の取材で判明した。
番組は防衛省と契約したフェリーを取材。過去の戦争と民間船との知られざる事実を紐解き、自衛隊周辺で進む「変化」の意味を伝えたい。

「防衛フェリー~民間船と戦争~」特設ページはこちら