佐藤 裕二

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ニュースの時間

松坂効果

あれは、わずか9年前の夏の日。17歳の童顔の少年は、真夏の陽光に額の汗を輝かせ、右足を大きく振り上げながら、甲子園球場のバックスクリーンに向かって両の手を突き上げた。
「記念大会を締めくくる、横浜・松坂、決勝戦でのノーヒット・ノーラン!」。
1998年8月22日。第80回記念大会全国高等学校野球選手権・決勝。
大阪ABC朝日放送・武周雄アナウンサーの実況は、我々男性アナウンサーにとって憧れのフレーズだ。

1億ドルの男・松坂大輔。「経済効果は90億円」 

メジャー移籍が決まった頃、新聞にはそんな見出しが躍った。
ドラゴンズのお膝元、東海地方も松坂人気に沸く。
名古屋・栄のH.I.S.トラベルワンダーランドでは、この春のメジャー観戦ツアーの売り上げが、例年の3,4倍に伸びているという。
例えば「ボストン・レッドソックス観戦ツアー付きボストン5日間」(15万7千円~)。
セントレアからボストンまでの直行便はないため、デトロイト経由などで約15時間。レッド・ソックスの試合観戦や市内観光というツアー。
松坂中心に見たければネット裏、マリナーズ戦で、イチローもよく見たいという人にはライトスタンドを用意するという。

そんなメジャーツアーで松坂特有の現象が。
鳥居武史副主任は「ご家族連れの予約のお客様が多いんです。ワールドカップなどの時にはなかった現象です」と驚く。

松坂グッズも人気だ。
スポーツデポ・有松インター店には、レプリカユニフォームやTシャツ、帽子が並ぶ。
1月に導入し、シーズンイン前の3月末の時点で、全国のスポーツデポで約2000点が売れた。初登板以降、さらに売り上げを伸ばしているという。
そしてここでも松坂現象が。1番人気は子供用のTシャツ(2300円 背番号やMATSUZAKAという文字が赤色)。有松インター店野村英司店長は「ご家族連れの方がご購入されることが多いです」と話す。

「わが子も松坂のようになって欲しい」という親御さんが多いのか?「松坂のようになりたい」という少年少女が多いのか? いずれにしても国民的ヒーローであることがよく分かる。

17歳の頃から彼の笑顔を見てきた私達野球ファンは、自分が松坂を見守り育ててきたような、心地よさを覚える。
日本球界は裏金問題に揺れる。我々マスコミは経済効果を伝える。

しかし、松坂が投げ込むけれんみのない白球が、私達に与える夢と感動は、プライスレスだ。