放送内容

2010年10月23日(土)放送

中日ドラゴンズ・井端弘和 ~名手のプライド~

カテゴリー:野球

10日20日、クライマックスシリーズファイナルステージ第1戦。
中日の5点リードで迎えた7回、男は帰ってきた。
井端弘和、35歳。今シーズンはケガ、体調不良の影響もあり
満身創痍の果てにたどり着いた舞台だった。
苦しみ抜いた今シーズン、そして引き裂かれたプライド。
落合野球の申し子の今を直撃取材した。

今シーズンはわずか53試合の出場に留まった井端。
開幕当初は6番バッターとして、
またセカンドという新たなポジションからスタートしていたが5月、
広島戦で死球を受け、左肋骨を負傷。
チームの顔が開幕1ヶ月で早々と離脱してしまう。
それでも驚異の回復で6月には1500本安打を達成するなど、
シーズンの中盤に向けて歩を進めていくハズだった。
だがその5日後、再び登録抹消。原因は体調不良だった。
井端はこの時の苦しい胸のうちを明かしてくれた。
「先が見えていたら気持ちも沈むことはないし、治ることが分かっていたら
落ち込むこともなかった。正直、苦しかった。野球しかやった事がない人間なので
生きている心地がしなかった」

そんな想いとは裏腹に井端の穴をプロ4年目の堂上直倫が埋めていく。
新星の登場、結果のみが求められるプロの世界。
井端の離脱後にチームは上昇気流に乗り始め、いつしか優勝争いを演じ始める。
9月上旬になると、体調が戻りつつある井端の姿は2軍が練習するナゴヤ球場で
度々見かけられた。悔しい気持ちを練習にぶつける井端。
一心不乱にバットを振り、ボールを追った。

その後チームは10月1日に4年ぶりのリーグ優勝を決めた。
奇しくもその翌日、井端は1軍に復帰。
視線の先は早くもポストシーズン、そして来シーズンを見据えていた。
クライマックスシリーズファイナルステージまで3週間余り。
この大事な調整の場として指揮官は、
宮崎で行われるフェニックスリーグ(ファーム教育リーグ)を選んだ。
落合監督は異例の全員抹消を決め、この教育リーグでもう一度競争心をあおり
使える選手、使えない選手をふるいにかけようとした。
もちろん井端も例外ではない。主力選手よりも先に宮崎入りし、実戦を積んでいた。
そんな男に衝撃が走ったのは10月12日。
首脳陣と主力が合流した初日に井端へ外野守備の命令が下ったのだ。
6年連続ゴールデングラブ賞の男に突きつけられたあまりにも厳しい現実。
この日の試合で9年ぶりに外野出場を果たした井端、無難にこなしはしたが心の中がズタズタだった。
普段は報道陣に対しても気さくに話をしてくれる男が、この日ばかりは荒れた。
「…疲れた」

名古屋へ戻り、インタビューに応じてくれた井端はその時をこう振り返る。
「なるべくそういう風に(態度に)出さないようにしていましたけど…
まあ監督の指示なので…でも何とも思わない訳がない」
切り裂かれた名手としてのプライド。だが全てはチームのためである。
それは井端自身が一番良く分かっている。
「直倫が出るのは仕方ない。良く頑張ったから。でもせっかくチャンスをもらったので
クライマックスシリーズで出るチャンスがあれば自分のプレーをしたい」
そう語った落合野球の申し子。
ポストシーズンでどんなプレーが見られるのか、井端のプレーから目が離せない。