アスリートドキュメント

スポーツの素晴らしさは夢に向かって挑戦し続けるアスリートの素晴らしさ。密着取材でアスリートの真実の姿を描き出します。

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中日ドラゴンズ・浅尾拓也

2008/10/04放送

~飛躍の理由~

今シーズン、目標に掲げていた「完全制覇」の夢は達成できなかった落合ドラゴンズ。
しかしチームはクライマックスシリーズ出場へ最後のラストスパート!
10月3日現在、熾烈な3位争いをしてきた4位広島に対して2.5ゲーム差をつけクライマックスシリーズマジックを「1」としているドラゴンズ。4日にもプレーオフ進出が決定する。

そんなシーズン終盤の今、一人の若きセットアッパーが輝きを放っている!!
プロ2年目、地元愛知県出身の23歳・浅尾拓也だ。
今やチームでも1、2を争うほど中継ぎとして安定感を誇る浅尾。
そのウラには彼を劇的に変化させたあるキッカケがあった・・・

浅尾は今シーズンの開幕を2軍で迎えた。原因は昨年8月に痛めた右肩の状態が思わしくなかったからだ。昨シーズン、ルーキーイヤーだった浅尾は先発、中継ぎで4勝をあげるなど、新人らしからぬ活躍を見せていた。
そんな浅尾が右肩の故障。募るイラだちをこらえながら今シーズン前半を過ごしていたが、故障の原因がある気持ちの変化一つで完治の時を迎える。
「気にしすぎていた。自分のピッチングフォームの中で痛みの出ない所を探してピッチングしていったら、自然と痛みがなくなった」

6月7日に今シーズン1軍初昇格を果たした浅尾。その後は北京オリンピック出場のために不在となった守護神・岩瀬の代役としてクローザーも経験し、昇格から2ヵ月後の8月7日、プロ2年目でうれしい初セーブも挙げる活躍を見せた。
ところが、この大事な夏場に浅尾自身のピッチングスタイルを変える「転機」が訪れる。
8月25日の巨人戦(東京ドーム)。浅尾は8回からマウンドに上がり、3人でピシャリと抑えたが9回、ドラゴンズ2点リードの場面で浅尾は巨人打線に4本の長短打を浴び、今シーズン初黒星を喫した。これはクローザーとして自身初めて救援に失敗をした瞬間でもあった。

「自分はストレートでしか抑えられる自信がなかった」

浅尾の持ち味といえば、150キロのストレートである。
しかし、この球だけでは通用しないという事が身にしみて分かったという。
そしてチームがクライマックスシリーズ進出をかけて戦う大事な9月、ここから浅尾は、ある変化球が冴えを見せはじめる。

「パームボールが低めに決まるようになった」

浅尾はストレートの他に、130キロ後半のフォークとスライダーを投げ、さらに120キロ台の「パーム」を投げる。そのパームが打者を翻弄し、浅尾最大の武器であるストレートをより生かせるようになった。

パームボールはチェンジアップ気味に曲がる、ゆるい球であるが本来、親指と小指でボールを挟んで投げるため、技術的には難しいとされている。さらにコントロールすることも難しい。
そんな難度の高い変化球を浅尾は、学生時代に親指と薬指で挟む独自の握りでマスターし、この大事な9月に最も自分が納得できる球になったのだという。

事実浅尾は9月、12試合に登板し2勝0敗。失点は0の大活躍。パームボールで打者を打ち取る場面も以前より多くなった。
このままの調子を維持し、狙うのは去年登板できなかったクライマックスシリーズと日本シリーズでのセットアッパーだ。
「もし3位で入って登板する機会があったら、自分のやってきた事を出したい」
浅尾拓也、23歳。何とも謙虚な男である。


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