国産木魚がピンチ 国内生産はわずか5軒、打楽器への「変身」に活路 愛知
2023年6月27日 17:53
日本の暮らしに古くから馴染んでいる「木魚」。実は、国産の木魚は愛知県でしか作られていないんです。今、ピンチを迎えている「伝統工芸品」の木魚、新しいカタチを取材しました。
愛知だけで作られる国産木魚
木特有の乾いた音が響き渡る名古屋市内の木工所に所狭しと並んでいるのは口や尾ひれが付いた木工品。
見た目はまるで『おたまじゃくし』、仏具としても使われる「モクギョ」なんです。
日本では、お経を読むときに叩くことで知られる「木魚」。
現在、国内で木魚を作っているのは、愛知県だけです。
「尾張仏具」として県の伝統工芸品にも登録されています。
「尾張仏具」として県の伝統工芸品にも登録
愛知だけで作られる国産木魚、熟練の技術と膨大な時間を経て完成
魚のうろこのような模様に渦巻き、そして、鋭い牙で玉をかむ竜。
繊細かつ大胆な彫刻は、木魚の特徴の一つです。
作っているのは愛知県愛西市の「市川木魚製造所」、親子3代にわたり約100年、木魚を作り続けています。
「なかなか仕事としても大変だし、ほかに類を見ない職なのでやりがいはありますよね」(市川木魚製造所 市川幸造さん)
1つの木魚を作るのにかかる時間は、なんと12年から15年。
まず、伐採してきた木を2~3年寝かせたのち、木魚の大きさに切り出し、木魚の形にしていきます。
熟練の職人技
もっとも技術の習得に時間がかかるといわれる中彫り、両側にあるわずかな隙間から柄の長いノミを入れ中を削っていきます。
「音を出すためには中彫り作業が重要で、木の硬さによっても中の彫り方を変えたり、一個一個、木の木目があって癖もあるので中を彫る作業が最終的には音に関わる仕事になるので一番重要な作業になります」(市川幸造さん)
中彫りが終わると、7年から~10年の間、自然乾燥させ、その後、彫刻を施します。
「上彫刻をしていて、ちょうど渦の部分を彫っています。絵としては、魚から竜になるところを描いています。中国のことわざである登竜門、魚が頑張ると竜になる。修行僧も頑張って修行するとえらいお坊さんになれますよというのを木魚は描かれているというところです」(市川幸造さん)
市川木魚製造所 市川幸造さん
「仕事覚えるのに10~12年かかる」伝統工芸にのしかかる後継者問題
手間暇かけて作られる木魚は、1個数百万円から高いもので数千万円を超えるものもあります。
市川幸造さんも56歳になり、代々受け継いできた技術の数々を若い担い手に託そうと考えています。
「仕事を覚えるのに10~12年かかるので、もうそろそろ後継者を作っておかないと自分がいつまで仕事できるか分からないので、そろそろ後継者を作るタイミングかなとは思っています」(市川幸造さん)
しかし、比較的安価な海外製の木魚が流通したことや、仏壇を置く家が減ったことで、国産木魚の注文は激減したといいます。
国内で木魚を生産しているのは、愛知県内の5軒のみ。
伝統工芸は、まさしく存続の危機を迎えています。
「商売にならない、お金にならない仕事を息子に継がせるわけにはいかないし、これが仕事として成り立つかどうかという瀬戸際でもあると思います」(市川幸造さん)
なぜ、おたまじゃくし?
木魚が打楽器に?時代と共に新しいカタチを模索
こうした苦境の中、新たな形で木魚を広めようとしている別の木工所も。
名古屋市西区の「深田木工所」を営む深田仲司さん(50)は3代にわたり、お寺や家庭用の木魚を製造してきました。
時代とともに、仏具が家庭で使われなくなり、もっと身近に木魚の音を感じてほしいという思いから、生まれたのが『おたまじゃくし』です。
「広く一般の人にも、仏具として使わない人にも使ってもらいたいというのがあって、『モクギョ』という打楽器を作ってもらいました」(深田木工所 深田仲司さん)
木魚の技術を生かしながらも、デザイナーとのコラボによって実現した、従来にはなかった発想です。
ネット通販で、販売しているだけでなく、名古屋市のふるさと納税の返礼品にもなっています。
見た目も可愛い新たな打楽器「モクギョ」
後継者が現れることを期待
深田さんは、見た目も可愛い新たな「モクギョ」を通して、日本の伝統工芸の技術を多くの人に知ってもらうだけでなく、実際に作ってみたいという後継者が現れることを期待しています。
「うちも後継者はまだいないんですけど、今回作ってもらったもので面白いと思ってもらえると、また木魚に興味を持って、後継者というか、やりたいんですけどと言ってもらえるかと思います」(深田仲司さん)
(6月27日 15:40~放送メ~テレ『アップ!』より)