備蓄米21万トン放出決定、でも小売価格はすぐ下がらない可能性も 農家は複雑な思い

2025年2月14日 20:10
高騰するコメの価格を抑えようと、政府が実施する備蓄米の放出。潮目は変わるのでしょうか。コメ農家の受け止めと専門家の評価は。

備蓄米は3月下旬から4月上旬に店頭に並ぶ見込み

「販売数量は21万tとします。これは流通が滞っているこの状況をなんとしても改善したいという、強い決意の数字だと受け止めていただきたい」(江藤農水大臣 )

 政府が保有する備蓄米について、江藤農林水産大臣は、21万tを放出すると正式に発表しました。

 備蓄米の放出は最初に15万tを予定していて、流通の状況をみて、21万tからさらに拡大することも検討するとしています。

 早ければ3月下旬から4月上旬にスーパーなどの店頭に並ぶ可能性があります。
 

コシヒカリ5kgの小売価格は、1年前と比べて約1.7倍に

スーパー「3月には売るものがない。手遅れ」
「恐ろしいくらい高いよね」(買い物客)

「コメは高くてもしょうがないから買います」(買い物客)

 総務省によると、コシヒカリ5kgあたりの小売価格は、去年の夏場以降に急上昇。今年1月には4185円となり、1年前と比べて約1.7倍の価格になっていました。

 名古屋市内のスーパーでは、愛知県産のコシヒカリが5kg3580円で販売されていました。

「きのう入荷したが、今月いっぱいでコシヒカリは入荷が終わり、在庫がなくなってしまうと伝えられて、3月には売るものがないという状況になる」(新鮮組 小澤伸男 店長)
 

備蓄米放出に期待する買い物客

消費者は歓迎「いまは緊急事態」
 農水省が発表した備蓄米の放出は、店にとっては救世主となるのでしょうか。

「放出米の件も耳には入ってきているが、3カ月かかると聞いたので間に合わない。うちはどのみちコシヒカリは売り切ってしまうと思う。意味はあると思うが手遅れ。(価格が)上がりきって、物がなくなってその次になるので、結果的には食べる方が苦しむ」(小澤店長)

 消費者にとって、備蓄米の放出への期待は――。

「値段も下がるだろうし、いま品薄になっている好きなコメも、たくさん並ぶと買いやすい」(買い物客)

「困っているから出してもらえればいい。ある意味いまは緊急事態なので。価格は安定してほしい」(買い物客)
 

コメ農家の燃料費や肥料代は年々高騰している

経費高騰に悩む農家は複雑な思い
 備蓄米の放出によってコメの価格は安定すると見込まれていますが、コメを生産する農家は、これをどう受け止めているのでしょうか。

 知多半島の中心、愛知県半田市で農業を営む近藤匠さん(32)。

 約35haの田んぼでつくるコメを、年間で約1万7500kg出荷しています。

 高止まりが続くコメの価格については、複雑な思いが。

「生産コストは毎年上がり続けているので、そこに対しての価格転嫁が今まで難しかった。うれしいところはうれしかったですが、いまこれだけ高止まりしてしまうと、ちょっと複雑な気持ちではある」(近藤さん)

 年々高騰する燃料費や肥料代などを加味すると、現在の値段は農家としてはありがたいといいます。
 

農家には、普段コメを扱っていない業者からも問い合わせが

価格高騰に便乗した怪しい動きも
 その一方で、価格高騰に便乗した怪しい動きが――。

「新米の問い合わせがひっきりなしにあって、普段コメを取り扱っていないだろうという業者からも問い合わせがある」(近藤さん)

 普段、卸やネットショッピングでコメを販売している近藤さん。

 それが今年は取引のなかった県外の業者や、リサイクル業者などからも声がかかる"異常事態"に。困惑は隠せません。

「投機目的で、いろいろな業者が参入してきているのかな」(近藤さん)

 こうした業者がコメを買い集めたことで流通量が減り、価格の高騰につながった可能性が指摘されています。
 

愛知県半田市で農業を営む近藤匠さん

農家「去年の2~3割増の値段でとどまれば」
 流通が滞る状況を変えようと、政府が打ち出した備蓄米の放出。

 コメ農家はどう思っているのでしょうか。

「消費者が買う値段が下がる一つの要因になってくれることがいいのではないか。ただ前のようにコメの価格が下がり過ぎても、農家をやっていけないので、去年に比べて2~3割増しのコメの値段でとどまっていくのがいいのではないか」(近藤さん)
 

小売価格が下がるまでには時間がかかる可能性も

専門家「小売価格に反映するのは時間かかる」
 コメの値段は、どれだけ下がるのでしょうか。

 コメの生産や流通に詳しい専門家は――。

「スーパーのコメの価格が一律で500円~1000円下がることは起きず、下がり方にかなりムラがある状態になるのではないか。備蓄米とは、スーパーの在庫を保管しているわけではないので、消費者が知らないような品種や、いろいろな産地のものがある。どちらかというと、外食や中食などが関わってくるのではと思う」(宇都宮大学 農学部 小川真如 助教)

 「価格の上昇に歯止めはかかる」とみていますが、小売価格に反映されるのには、時間がかかるのではないかといいます。
 

コメ価格の乱高下を懸念する宇都宮大学農学部の小川真如助教

価格が乱高下する恐れも
 一方、こんな指摘も――。

「本来、国はコメはあるんだっていうのを一貫して言っているので、(コメがある中に)出していくことになるので、価格が大きく下がる可能性がある。価格の上下が激しくなると、みんな不安になるので、安定的な経営を阻害することになり、先行きが見えなくなるかなと思う」(小川助教)
 

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