被ばくから医師を守る 世界初!X線を使わない透視技術でがんや心疾患の手術進歩の可能性 名古屋

2025年2月14日 06:01
14日はバレンタインデーです。大切な人を思うこの日に、死に直結する病気の治療を進歩させるかもしれない世界初の技術が表彰、開発に至る背景を取材しました。

心疾患のイメージ Jo Panuwat D / PIXTA(ピクスタ)

日本人の死因上位の治療に多用されるカテーテル
 厚生労働省によると、令和5年の日本人の死因の上位に、悪性新生物<腫瘍>いわゆる「がん」(24.3%)、「心疾患」(高血圧性を除く)(14.7%)、「脳血管疾患」(6.6%)などがあげられています。

 医療用器具の開発を手掛ける「ファイン・バイオメディカル」の代表取締役・池田誠一さん(47)によると、死因の上位にあげられるような病気を治療するときには「カテーテル」というチューブ状の器具を血管の中に入れ、患部に薬を投与したり、器具を設置して血管を広げたりする手法がよく用いられます。

 カテーテルには、多くの種類があり、治療にあたり、医師は少なくとも100種類のカテーテルの使用法を学び、訓練を重ねておく必要があるといいます。
 

カテーテルを用いた治療の例 阿部モノ / PIXTA(ピクスタ)

カテーテルの意外な使用リスク
 治療にあたって非常に重要な役割をもつ「カテーテル」。しかし、使用する上で問題もあります。

 心臓や脳などにカテーテルを入れる時には、患者にX線を照射して、カテーテルの位置やカテーテル内部の器具の状況を把握する必要があります。手術によっては3時間以上かかる場合もあり、長い時間、放射線にさらされることになります。

 専用の部屋で放射線の量や照射時間を管理するため、被ばくのリスクは抑えられていますが、何人もの治療をする医師は、繰り返し放射線にされされることになります。

 また、現状では、手術の練習や新しく導入される器具を使う練習でもX線を照射する必要が出てくる場合もあり、医師からは長年「手術以外でX線を使いたくない」と健康上のリスクを心配する意見が出ているといいます。

 カテーテルの開発段階でも、メーカーの開発者が作り出した器具の検証などをする際に、X線を実際に照射することがあります。

 さらに、試作中の器具を医師と共同評価する際や、完成した器具の使用法を医師に実際に使ってもらいながら説明する「使用法説明」の場面でも照射の機会があります。

 頻繁にX線被ばくする危険性を回避するためには、開発のスピードをむやみに上げることはできないといいます。
 

可視光観察との比較 (ガイドワイヤを内部配置したカテーテル) 提供:ファイン・バイオメディカル

がんや心疾患の治療が進歩する可能性 世界初!X線を用いない透視技術の仕組み
 こうした意見を受け、名古屋大学発のベンチャー企業「ファイン・バイオメディカル」が、X線のかわりに「近赤外線」を用いて、人体やカテーテルの内部を透視する技術を開発しました。

 これは、代表取締役の池田さんが学生時代から行っていた「光」の研究がきっかけとなり、毎月のように日本脳神経血管内治療学会の医師らと試作品の評価を繰り返し、共同で開発したものだといいます。

 この技術は、世界初のもので、共同開発に携わっている医師からは「国内外での需要が見込まれる」と言われていると池田さんは語ります。

 「近赤外線」とは、テレビやエアコンのリモコンなどに使われているもので、人体への影響をおさえながら、X線を用いた場合と同等かそれ以上にはっきりと透視できます。

 現状では、「脱X線型観察装置」などと呼んでいます。

 X線を用いるには、被ばくリスクがある上、専用の部屋や器具など、数億円の費用がかかるのに対し、この装置の導入コストは数百万円。

 装置の全貌や詳細は公開されていませんが、現在、製品化に向けて動いています。卓上に設置できるほど小型で、放射線は出ないため、専用の部屋も必要なく、様々な場所で使うことができるということです。

 池田さんらが開発したこの「脱X線型観察装置」の技術が、名古屋発の優れた新技術・新製品を表彰する「令和6年度名古屋市工業技術グランプリ」で、最上位の「名古屋市長賞」を受賞しました。14日は表彰式です。

 池田さんは、受賞をきっかけに、装置が広く普及していくことに期待を寄せています。

「医師や器具の開発者が放射線を浴びるリスクにとらわれることなく、より進化した医療器具を開発したり、医師がその器具を上手く使えるようになり手術の安全性が上がったりして、がんや心疾患などの病気の患者を救える可能性が高くなるのではないか」(「ファイン・バイオメディカル」代表取締役・池田誠一さん)

(メ~テレ記者 内田悠雅)
 

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