「お待ちください」が言えずに苦労…故郷を追われたウクライナ人たちのレストランが継続のピンチ

2024年7月14日 05:01
ロシアのウクライナ侵攻が長期化するなか、日本では2013人が避難していて「働き場所」の確保が課題です。5月、避難民らでつくるレストランが名古屋に開業しましたが、営業の継続が危ぶまれていてクラウドファンディングで資金を募っています。

川口プリス・リュドミラさん

 5月15日、名古屋駅近くのビル「ウインクあいち」の地下1階にウクライナ料理のレストラン「ジート」がオープンしました。「ウクライナ避難民が働ける場所」ということで多くのメディアの注目を集めました。

 外務省によると日本に滞在するウクライナからの避難民は6月末現在で2013人で、都道府県別で最も多いのが東京の622人、愛知は122人です。避難生活が長期化するなかで求められる支援策は「働ける場所の提供」ですが、言葉の壁が立ちはだかっています。
 

接客の様子

避難民が働ける場所の必要性
 名古屋で活動するNPO法人「日本ウクライナ文化協会」の川口プリス・リュドミラさんは「日本語が分からなくても避難してきた人たちが働ける場所を」とジートをオープンさせました。現在15人ほどが働き、ほとんどが女性です。

 リュドミラさんは「避難民の人たちは仕事が見つからない人が多かった。ジートなら日本語がわからなくても生活のためにお金を稼ぐことができる」と店の意義を説きます。日本語が分からない人はキッチンに、日本語が分かる人はホールへ配置して、それぞれに店での役割をつくりました。
 
 
 

「ジート」で提供されるボルシチ

「しばらくお待ちください」が言えずに…
 開店当初はランチタイムに40~50人ぐらいの客が訪れましたが、スタッフは日本での飲食店の経験がないうえ日本語での接客も不慣れとあって苦い経験もしました。「満席の時にやってきたお客さんに『しばらくお待ちください』とうまく説明できずに、お客さんが帰ってしまうこともあった」とリュドミラさんは振り返ります。今はスタッフも接客に慣れてきてこうしたことはなくなったと言います。

 検索サイト「グーグル」のクチコミを見ると、確かに開店当初には段取りの悪さを指摘するコメントもありましたが、接客の丁寧さや料理のおいしさを伝えるコメントが多い印象です。
 

オープニングセレモニー(5月15日)

クラファンも苦戦
 一方で、収支については「プラスマイナスゼロ」(リュドミラさん)という状況です。安定した経営のためには1日にランチ60人、ディナー40人ほどの来店が目標ですが、実際は概ねランチ30~40人、ディナー10~20人と大きく下回ります。

「ランチに60人が来てくれる日もあるが、お客さんの数は浮き沈みがあって安定していない」と言います。

 9月には店の敷地を借り続けるための保証金の支払いを控えています。クラウドファンディングサイト「OCOS」(オコス)で賄えればと考えていますが、目標400万円のうち集まっているのは150万円ほどにとどまっています。

 

懸命に働くスタッフ

店を守る決意
 クラウドファンディングで足りなければ銀行からの融資に頼らなくてはいけませんが、融資を得るためには黒字か黒字が望める材料が必要です。スタッフたちもインスタグラムでの発信や新たなデザートの開発など積極的にアイデアを出しあって店の存続に向けて動いています。
 リュドミラさんは「避難してきた人たちへの日本政府からの支援も限りがある。ジートを守っていかなくてはいけない」と話します。

 故郷を追われた人たちのレストラン「ジート」。ウクライナの言葉でジートは「ライ麦」を意味するそうです。踏まれても強く立ち上がる麦のように店の継続を懸けて、リュドミラさんやスタッフは店に立ちます。

■ジート
愛知県名古屋市中村区名駅4丁目4-38「ウインクあいち」地下1階
営業日時:月~土(午前11時~午後2時半、午後5時~午後10時)

(メ~テレ 水野健太)
 

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