2005年7月6日 25時47分~26時42分放送
 
ただ、物語のためでなく 
~鈴鹿発 映画監督・小栗康平の挑戦~
 
スタッフのつぶやき
 
ディレクター 平岩潤
 初めて監督に会ったのは1年以上前の事だ。9年ぶりの新作を、鈴鹿を拠点に撮影すると聞き取材を始めた。「泥の河」以来、25年間で撮った作品は4本だけ。内外の高い評価の一方で、難解、退屈との声もついて回る。ヒロイン選びのオーディションで来名するチャンスを狙って会った。「映画が出来るまでの一夏を追いたい」と短く意図を話すが、「普通のメイキングなのかなあ」とあまり乗り気ではないようだった。逆に「撮影よりも、その前とその後が、しんどいんだよね」と、聞かされる。撮れなかった9年間は、どう過ごしていたんだろう。そこで、「その前」と「その後」も撮ることにした。
 昨年夏、三重県鈴鹿市の旧NTT研修センターに、監督以下、合宿しての撮影。朝9時から始まったセット撮影は、夜9時、2カット目が、ようやく本番を迎えている。セットは、巨大な倉庫を遮光しただけ。防音も空調もない。監督は汗まみれで鬼の形相。照明の陽炎の向こうには、主演の14歳の少女、夏蓮(かれん)がいる。小栗作品は、ワンカットが長くアップを撮らない。凡庸なテレビ屋には、真似ができない。「セリフを撮るのではない。物語だけが映画の楽しみなのか。風景を含め、写っているものすべて、映画なのだ。」その分ワンカットへの集中力はすさまじい。長い長いテスト、そして本番。テイク10、ようやくOKが出た。
 カンヌで「埋もれ木」の上映が終わった。ものすごい拍手と「ブラボ-」の声。監督が、立ち上がって応えている。目の奥が光っているように見える。「あのクールな監督が」見ているこちらも、高ぶりを押さえられない。その光景を見ながら考える。「この1年をどうまとめるのか」今度は、私の仕事である。
 
 
放送内容について